下荒井兄弟のスプリング、ハズ、カム。

贔屓というか、ナを好きな人間としてみるというフィルターを絶対に薄められない作品だから、一生よく分からない高揚感をもったまま見続けるんだろうなぁ。なにも知らない人としてこれを観たらどう思っていたのか、想像すらできない。他の作品と比べて、明確に抱く感情が変わっていただろうなという自覚がある。

苦しい中で産み出されたものが、あまりにも大泉さんの箱庭の楽しさと美しさと切なさに溢れていて、彼が愛するものをおすそわけしてもらったような、覗き見させてもらったような特別な気持ちになる。下荒井家にやってくる春を見届けるだけで5人への感情にもリンクして胸がぎゅっとしめつけられるような、そういう力を持っている。経緯がどうであれ、5人の舞台の歴史にこの作品が並んでくれて本当に良かった。

「なんで俺ばっかりこんな目にあうんだよ…何をやってもうまくいかない…」

持っていないわけじゃないのになんにもうまくいかない男剛助がいちいち情けなくてもうかわいくてかわいくて最高。翻弄されている姿があまりにもかわいい。安田さんのあくまでも普通の演技もすごく良くて、演技上手いなあとしみじみと思う。発声と発音のバランスとか、このときが一番無理がなくてすきなんだけどなぁ。色味や遊びが少なくて堅実な人生を送っているように見えるのになぜか破滅型の剛助と、引きこもりの盗聴マニアというアングラ感の強さのわりにビビッドなスタイルかつうまいこと生きている様子の健二のバランスも大好き。並んだ姿の対照さが本当に完璧だった…ゴ兄弟、最高にかわいい。

「ちがうんだよ、"ぬ"じゃなくて"どぅ"なんだよ!」

おーいずみさんの好きな人たちはみんなおーいずみさんの頭の中で独立したものとして生きていて、いつもその住人たちと理想通りに楽しく遊んでいるんだろうね。排他的ともいえる世界観がすごくノスタルジックで楽しくて時々悲しい。私はとにかくおーいずみさんが描くナの姿、そして安田さんの姿が好きなんだ…だからこの作品はもう、おーいずみさんの箱庭で生きている安田さんの姿を、剛助を通して垣間見られるという幸せへの満足感で死にそう。まあ、その箱庭で生きる安田さんをなんとおーいずみさん本人にフィーチャリングするというとんでもない爆弾、山田家の洋一くんがその部門の殿堂入りキャラクターであることは私の中で揺るがないことなんだけど。山田家や朝日荘とは違って、今回は兄弟という並列した設定があるから、ナ全員に対してそういう理想にまみれているのが良い。理想像が明確すぎるがゆえに副音声で悪びれもせず爆笑しながら「もう本物の森崎くんじゃ満足できないんだよねぇ」などと言ってのけるおーいずみさんは最強の庭師。自分の世界観に対してわりとゆるがない絶対がある人だから、一度紡いでしまうと箱庭の一部をとめどなく外に出してくれるのがたまらん。こういう脳内の箱庭第一主義の発言を聴くたびに最上級の愛と独占欲を感じるし、小さな世界で一生平和で幸せでいてほしい人だなと思う。